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「伊藤順一展」
11月14日(土)~12月20日(日)
山んばあさんとむじな

いとうじゅんいち 作・絵/徳間書店
村のうら山にすんでいる、村でいちばん長生きの山んばあさんが、いつもいってる。

「うら山で、くらくなるまであそんでると、むじなが、ばけてでるから、

あかるいうちに、かえらんといかん。

とくに、くししししし……というわらいごえが、きこえるときは、

きをつけたほうがええよ」って。
村にはいたずらぼうずの4人ぐみがいて、

いくら、おこられても、

うら山をなわばりにして、わるさばかりしていた。
ある日、4人が、くらくなるまであそんでいると、

ふしぎなことに、きがついた。

「おーい、なんだかひとり、多いような気がしないかぁ」
くらくて、かおが、よくわからないから、

じゅんばんに名前をいってみた。

「おいらげんただ」「おれひこじだよ」

「てつおだぁ」「しんきちだい」

まちがいない、いつもの4人だ。

でも、かぞえてみると、どうしても5人になってしまう。
4人は、なんとなくきみがわるくなって、

かえることにした。
つぎの日、山んばあさんがいった。

「いわんこっちゃない。そりゃあ、むじながでたんじゃ。

むじなは、山をまもっておるんじゃ。

きをつけんと、こんどこそ、むじなの化かしにあうぞ」
けれども、4人は、そんなこと、きいちゃあいない。

「むじななんか、いるものか。そんなのつくりばなしにきまってらあ」

ところが、日がおちて、あたりが見えにくくなったころ、どこからともなく、

くししししししし……という声がきこえてきた。

「おい、へんなわらい声がするぞ」

「おかしいぞ。またひとり多い」
「山んばあさんが、いったとおりだ。

むじなが、まざってるんだーっ」

4人はいちもくさんに、にげだした。
一本道をはしっていったら、

いきなり道がきえて、

田んぼにおっこちた。
すると、田んぼのドロが、

もくもくっと、もりあがって、
大むじなになった。

「おまえたち、もう家へはかえれねえぞ~~~」

「うわあっ、

た、たすけてえっ

こわいよう―――」
竹やぶへにげこんだら、

なにか大きなものが、たちはだかって、

まえへ、すすめなくなった。

「おれはササボウズだ。

ここは、とおさねえぞぅ」
あわてて竹やぶをとびだすと、

ぬまに、おっこちた。

「わしは、大むかしから、ぬまにすんでる

どんこじゃ。おまえたちは、

わしのいぶくろに、はいってもらうぞ―――」


4人はあっというまに、

どんこにのみこまれてしまった。
はっと、きがつくと、あたりは、おばけがウヨウヨ。

「ひええ、もうかんべんしてくれえっ」
と、いつのまにか、4人は、それぞれ、家の前にたっていた。

ふしぎなことに、どこもぬれていないし、ドロもついていない。

もう、なにがなんだか、わからなくなってしまった。
みんな、さっきのおそろしいできごとを、むちゅうで、はなした。
「そりゃあ、おまえら、むじなに、ばかされたんじゃ。

わるさも、どがすぎると、むじながばけてでるんじゃて」

「とうちゃんが、こどものころにも、

そんなことがあったなあ」
「あれ、ほんとに、むじなの化かしだったのかなあ」

「むじな、また、でるかなあ」

4人は、うら山にくるたび、顔をみあわす。
「やれやれ、これでうら山も、とうぶん、しずかになるわい。

こんど、わるさしおったら、なににばけて、おどかしてやろうかの」

山んばあさんは、そう、つぶやくと、にたっと、わらった。
「くしししししし……」

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