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「伊藤順一展」
11月14日(土)~12月20日(日)
海からきたカサゴン

いとうじゅんいち 作・絵/徳間書店
海辺の小さな村に、いそきちという、とてもつりのうまい子がいた。
でも、いそきちには、なかのいい友だちが、ひとりもいなかった。
「おい、見ろよ、いそきちがいるぞ」
「あいつ、ぜんぜん、おれたちと、あそばないんだよな」
「いっつも、ひとりで海ばっか、行って」
でも、いそきちには、どうしてみんなにのけものにされるのか、
わからなかった。
いそきちは、いつもひとりで、いそにきていた。
「今に見てろ。大ものをつりあげて、
みんなをあっといわせてやるんだ。
おっと、きたぞ。
きょうれつな手ごたえだ。
うーん、力いっぱいひいても、
びくともしないぞ。
こいつぁ、ものすごい大ものにちがいないぞ」
「ぐわははははは。
おれさまは、カサゴンだあ。
100年も生きている
海のかいぶつさ。
おい、おまえ、
大ものをつりたがっていたから
つられてやったんだぞ。
どうだ、うれしいだろ。
ぐぇへへへへへ」
「カサゴン、おねがいがあるんだけど。
きみをつれていって、
みんなをびっくりさせてやりたいんだ。
ぼくの村へきておくれよ」
「おやすいごようだ。
人間ども、おれさまを見たら、
こしをぬかすぞ。
どうなっても知らないぞ。
ぐふふふふふ」
カサゴンが村へやってきた。
村じゅうが、びっくりぎょうてん、大さわぎ。
「わーい、ぼくをのけものにしたやつらや、
先生たちも、みんなにげてくぞ。
どけどけー、ふみつぶして、
おせんべいにしちゃうぞ―――。
あははははは」
すると、カサゴンが、ちょうしにのって、あばれだした。
「あ―――っ、ぼくが気にいっていたジャングルジムが……。
カサゴン、もういいよ。やめてよ。学校をこわさないで。
海へかえってよ―――」
「うるせ―――。こうなったら、おれはもうとまらないのだ。
ぐわははははは」
すると、そのとき、
「やかましいのう。
なにをさわいでおるんじゃ」
という、声がした。
「うわぁ、で、でた―――、おばけ―――」
「おばけとは、しつれいな。
おまえ、わしを知らんのか。
村のほこらにまつられている、
<海の神シャチラ>とは
このわしのことじゃ」
「シャチラさまぁ。
ぼく、カサゴンをつれてくれば、
みんなが、ぼくのことをみなおしてくれて、
友だちがいっぱいできると思ったんだ。
まさか、あんなあばれんぼうだなんて……。
はやくやっつけてよ。
神さまなら、つよいんでしょ」
「やれやれ、なんてじぶんかってな子じゃ。
しかし、あのばけものをほうっておけば、
村がめちゃめちゃになってしまうなぁ」
「カサゴンよ。
魚は海にすむものじゃ。
おとなしく海へかえりなさい」
「ふん、やかましいわい。
どうせおれは、海でもきらわれものさ。
もっともっと大あばれして、神さまだろうが、人間だろうが、
みんな食ってやる。かくごしろ」
こういうと、カサゴンは、まっ赤になった。
ガブ―――――ッ

カサゴンのもうれつな
かみつきこうげき。
ぶにょ~~~
びろ~~~ん
がじがじがじがじがじがじがじがじ

どうだ、まいったか―――」
「いててっ、いや、いたくないっ」

カサゴンとシャチラさまの
はげしいたたかいは、
なかなかおわらなかった。

「ふふふふふ、どうした、カサゴンよ。
げんきがないぞ」
「くっそ~~~。なんてしぶとい神さまだ。
もう歯がぼろぼろで、あごもがたがただぁ」
海の神シャチラさまは、がまんづよくて、
おまけに、いしあたまだった。
「カサゴンよ。
海の中で、みんなとなかよくくらすがいい。
わしのじゅもんで、海へかえしてやろう」
レタッソク レドモ
ニゴサカ~~~

カサゴンは、100ぴきの
小さなカサゴになって
海へととびちった。
「あんなにひどいめにあっても、手をださないで勝っちゃうなんて、
シャチラさまは、すごいや」
いそきちが、かんしんすると、シャチラさまが、いった。
「いそきちや。
どんなにつよい力を手にいれても、
それでなんでもできるわけではないんだよ。
友だちがほしければ、じぶんからみんなに話しかけてみたら、
どうかのう―――」
「いそきち。
やさしく、つよい子におなり」
それだけいうと、
シャチラさまは、夕日にとけて
見えなくなった。
「いそきちは、きょうも、いそへきていた。
でも、こんどは……
「うわ―――っ、また、いそきちがつったぞ。
どうしたら、そんなにつれるんだい?」
「やったぁ、ぼくもつれたぁ。いそきち、見てよ」
「いまいくよ。ちょっとまってて」
「ようし、おれも、つるぞう。見てろよ。いそきち」
「あははははははは……」

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