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山んばあさんとむじな
いとうじゅんいち 作・絵/徳間書店 |
村のうら山にすんでいる、村でいちばん長生きの山んばあさんが、いつもいってる。
「うら山で、くらくなるまであそんでると、むじなが、ばけてでるから、
あかるいうちに、かえらんといかん。
とくに、くししししし……というわらいごえが、きこえるときは、
きをつけたほうがええよ」って。 |
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村にはいたずらぼうずの4人ぐみがいて、
いくら、おこられても、
うら山をなわばりにして、わるさばかりしていた。 |
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ある日、4人が、くらくなるまであそんでいると、
ふしぎなことに、きがついた。
「おーい、なんだかひとり、多いような気がしないかぁ」 |
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くらくて、かおが、よくわからないから、
じゅんばんに名前をいってみた。
「おいらげんただ」「おれひこじだよ」
「てつおだぁ」「しんきちだい」
まちがいない、いつもの4人だ。
でも、かぞえてみると、どうしても5人になってしまう。 |
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4人は、なんとなくきみがわるくなって、
かえることにした。 |
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つぎの日、山んばあさんがいった。
「いわんこっちゃない。そりゃあ、むじながでたんじゃ。
むじなは、山をまもっておるんじゃ。
きをつけんと、こんどこそ、むじなの化かしにあうぞ」 |
けれども、4人は、そんなこと、きいちゃあいない。
「むじななんか、いるものか。そんなのつくりばなしにきまってらあ」
ところが、日がおちて、あたりが見えにくくなったころ、どこからともなく、
くししししししし……という声がきこえてきた。
「おい、へんなわらい声がするぞ」
「おかしいぞ。またひとり多い」 |
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「山んばあさんが、いったとおりだ。
むじなが、まざってるんだーっ」
4人はいちもくさんに、にげだした。 |
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一本道をはしっていったら、
いきなり道がきえて、
田んぼにおっこちた。 |
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すると、田んぼのドロが、
もくもくっと、もりあがって、 |
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大むじなになった。
「おまえたち、もう家へはかえれねえぞ~~~」
「うわあっ、
た、たすけてえっ
こわいよう―――」 |
竹やぶへにげこんだら、
なにか大きなものが、たちはだかって、
まえへ、すすめなくなった。
「おれはササボウズだ。
ここは、とおさねえぞぅ」 |
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あわてて竹やぶをとびだすと、
ぬまに、おっこちた。
「わしは、大むかしから、ぬまにすんでる
どんこじゃ。おまえたちは、
わしのいぶくろに、はいってもらうぞ―――」
4人はあっというまに、
どんこにのみこまれてしまった。 |
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はっと、きがつくと、あたりは、おばけがウヨウヨ。
「ひええ、もうかんべんしてくれえっ」 |
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と、いつのまにか、4人は、それぞれ、家の前にたっていた。
ふしぎなことに、どこもぬれていないし、ドロもついていない。
もう、なにがなんだか、わからなくなってしまった。 |
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みんな、さっきのおそろしいできごとを、むちゅうで、はなした。 |
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「そりゃあ、おまえら、むじなに、ばかされたんじゃ。
わるさも、どがすぎると、むじながばけてでるんじゃて」
「とうちゃんが、こどものころにも、
そんなことがあったなあ」 |
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「あれ、ほんとに、むじなの化かしだったのかなあ」
「むじな、また、でるかなあ」
4人は、うら山にくるたび、顔をみあわす。 |
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「やれやれ、これでうら山も、とうぶん、しずかになるわい。
こんど、わるさしおったら、なににばけて、おどかしてやろうかの」
山んばあさんは、そう、つぶやくと、にたっと、わらった。 |
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「くしししししし……」 |