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海からきたカサゴン
いとうじゅんいち 作・絵/徳間書店 |
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海辺の小さな村に、いそきちという、とてもつりのうまい子がいた。
でも、いそきちには、なかのいい友だちが、ひとりもいなかった。
「おい、見ろよ、いそきちがいるぞ」
「あいつ、ぜんぜん、おれたちと、あそばないんだよな」
「いっつも、ひとりで海ばっか、行って」
でも、いそきちには、どうしてみんなにのけものにされるのか、
わからなかった。 |
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いそきちは、いつもひとりで、いそにきていた。
「今に見てろ。大ものをつりあげて、
みんなをあっといわせてやるんだ。
おっと、きたぞ。
きょうれつな手ごたえだ。
うーん、力いっぱいひいても、
びくともしないぞ。
こいつぁ、ものすごい大ものにちがいないぞ」 |
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「ぐわははははは。
おれさまは、カサゴンだあ。
100年も生きている
海のかいぶつさ。
おい、おまえ、
大ものをつりたがっていたから
つられてやったんだぞ。
どうだ、うれしいだろ。
ぐぇへへへへへ」 |
「カサゴン、おねがいがあるんだけど。
きみをつれていって、
みんなをびっくりさせてやりたいんだ。
ぼくの村へきておくれよ」
「おやすいごようだ。
人間ども、おれさまを見たら、
こしをぬかすぞ。
どうなっても知らないぞ。
ぐふふふふふ」 |
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カサゴンが村へやってきた。
村じゅうが、びっくりぎょうてん、大さわぎ。
「わーい、ぼくをのけものにしたやつらや、
先生たちも、みんなにげてくぞ。
どけどけー、ふみつぶして、
おせんべいにしちゃうぞ―――。
あははははは」 |
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すると、カサゴンが、ちょうしにのって、あばれだした。
「あ―――っ、ぼくが気にいっていたジャングルジムが……。
カサゴン、もういいよ。やめてよ。学校をこわさないで。
海へかえってよ―――」
「うるせ―――。こうなったら、おれはもうとまらないのだ。 ぐわははははは」 |
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すると、そのとき、
「やかましいのう。
なにをさわいでおるんじゃ」
という、声がした。
「うわぁ、で、でた―――、おばけ―――」
「おばけとは、しつれいな。
おまえ、わしを知らんのか。
村のほこらにまつられている、
<海の神シャチラ>とは
このわしのことじゃ」 |
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「シャチラさまぁ。
ぼく、カサゴンをつれてくれば、
みんなが、ぼくのことをみなおしてくれて、
友だちがいっぱいできると思ったんだ。
まさか、あんなあばれんぼうだなんて……。
はやくやっつけてよ。
神さまなら、つよいんでしょ」
「やれやれ、なんてじぶんかってな子じゃ。
しかし、あのばけものをほうっておけば、
村がめちゃめちゃになってしまうなぁ」 |
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「カサゴンよ。
魚は海にすむものじゃ。
おとなしく海へかえりなさい」
「ふん、やかましいわい。
どうせおれは、海でもきらわれものさ。
もっともっと大あばれして、神さまだろうが、人間だろうが、
みんな食ってやる。かくごしろ」
こういうと、カサゴンは、まっ赤になった。 |
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ガブ―――――ッ
カサゴンのもうれつな
かみつきこうげき。 |
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ぶにょ~~~ |
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びろ~~~ん |
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がじがじがじがじがじがじがじがじ
「どうだ、まいったか―――」
「いててっ、いや、いたくないっ」
カサゴンとシャチラさまの
はげしいたたかいは、
なかなかおわらなかった。
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「ふふふふふ、どうした、カサゴンよ。
げんきがないぞ」
「くっそ~~~。なんてしぶとい神さまだ。
もう歯がぼろぼろで、あごもがたがただぁ」
海の神シャチラさまは、がまんづよくて、
おまけに、いしあたまだった。 |
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「カサゴンよ。
海の中で、みんなとなかよくくらすがいい。
わしのじゅもんで、海へかえしてやろう」 |
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レタッソク レドモ
ニゴサカ~~~
カサゴンは、100ぴきの
小さなカサゴになって
海へととびちった。 |
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「あんなにひどいめにあっても、手をださないで勝っちゃうなんて、
シャチラさまは、すごいや」
いそきちが、かんしんすると、シャチラさまが、いった。
「いそきちや。
どんなにつよい力を手にいれても、
それでなんでもできるわけではないんだよ。
友だちがほしければ、じぶんからみんなに話しかけてみたら、
どうかのう―――」 |
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「いそきち。
やさしく、つよい子におなり」
それだけいうと、
シャチラさまは、夕日にとけて
見えなくなった。 |
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「いそきちは、きょうも、いそへきていた。
でも、こんどは…… |
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「うわ―――っ、また、いそきちがつったぞ。
どうしたら、そんなにつれるんだい?」
「やったぁ、ぼくもつれたぁ。いそきち、見てよ」
「いまいくよ。ちょっとまってて」
「ようし、おれも、つるぞう。見てろよ。いそきち」
「あははははははは……」 |
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